フランス電力訴訟(メキシコ先住民の権利に関する訴訟、フランスで提訴)
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要約:2020年10月、ウニオン・イダルゴで暮らす先住民族・サポテコ族の代表者とNGO2団体がフランス電力を提訴しました。彼らは、グナアシカル(Gunaa Sicaru)で実施されているプロジェクトにおいて、フランス電力は人権侵害や環境への負の影響を防止するために必要な措置を講じておらずフランスのデューデリジェンス法(2017年)に違反していると訴えています。なお、フランス電力は訴えには根拠がないと主張しています。訴訟は継続中です。
争いのない事実
メキシコは2013年に民間の再生産エネルギー企業による投資の受け入れを開始しました。2015年、フランス電力とすでにこの地域で3つのウィンドファームを運営していたメキシコで活動するその小会社は、ウニオン・イダルゴのサポテコ族の暮らすコミュニティーの土地で、グナアシカルウィンドパーク建設の計画を開始しました。しかし、サポテコ族には事前にその計画は知らされていなかったようです。
そこで、サポテコ族の人々は2017年、メキシコの裁判所に様々な訴えを起こしました。また、2018年にはOECDのフランス連絡窓口(NCP)に対して申し立てを行いましたが、審理プロセスが有効ではないと考えたため2019年に撤回しています。
そして、2020年10月、ウニオン・イダルゴで暮らすサポテコ族コミュニティーの代表者と、NGOであるProDESCおよびヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)の2団体は、フランスの裁判所にフランス電力を訴えました。彼らは、フランス電力はこのプロジェクトに関して先住民族コミュニティーに事前に相談を実施するという義務を果たさず、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)という先住民族の権利を侵害していると主張しています。
フランスは2017年に新しい企業デューディリジェンス法を制定しています。その法律によって、フランスの大企業には「リスクを事前に予測するため、そして、人権や基本的自由、環境および個人の安全と生命に対する重大な影響が及ぼすことを避けるための合理的なデューディリジェンス」を制定し、実施することが義務付けられています。ここには、自社の経済活動のみならず、自社の子会社や取引先などの企業活動も含まれます。
法的主張
訴訟原告であるウニオン・イダルゴのサポテコ族コミュニティーの代表者やProDESC、およびヨーロッパ憲法と人権センターは、大企業が自社の経済活動によってもたらされる可能性のある人権侵害や環境破壊に対してその危険性を特定し、その発生を防ぐための合理的かつ有効な措置を実施することを求めているフランス企業デューディリジェンス法(2017年)に則ってこの訴訟を提起しています。
原告は、このウィンドパーク事業に関して先住民族コミュニティーとの実効性のあるFPICの実施をフランス電力は怠っており、デューディリジェンスの原則に反していると主張しています。また、フランス電力によるデューディリジェンスは部分的であるだけでなく具体的に危険性を特定していないため、本事業によって引き起こされる可能性のある権利侵害を防止するための有効策を講じておらず、その結果、FPICの原則に反するだけでなく暴力的な衝突や内部分裂につながっていると原告は主張しています。
本事業によって将来的に引き起こされる可能性のある先住民の人権侵害の発生を防ぐために、原告はフランス電力がデューディリジェンスに応じるまで事業の差し止めを求めています。また、すでに本事業によって生じている損害に対する補償も求めています。
ブルームバーグの報道に対して、フランス電力はメキシコ国内法にきちんと則って活動していると述べています。さらにデューディリジェンス法で義務付けられており国連も支持する、自身の暮らす土地に影響を及ぼす可能性のある事業を拒否することができるという先住民族の権利を認識していると回答しています。加えて、コミュニティーとの交渉窓口となっているメキシコ当局と協力しており、「地域コミュニティーとの緊密な信頼関係」を築いているとフランス電力は主張しています。2019年12月20日付けの文書でフランス電力は、「2018年のデューディリジェンス計画は、2017年3月27日に施行されたデューディリジェンス法の要件に完全に則っている」、そして「デューディリジェンス計画に書かれている防止および緩和策は公表されている」と主張しています。
訴訟動向
2020年10月、ウニオン・イダルゴのサポテコ族コミュニティーの代表者とNGO2団体はフランス電力を訴える訴訟をフランスで提起しました。訴訟は民事事件として継続しており、準備手続きの最中です。2021年2月、原告は主張の正当性に関する判断が下されるまでウィンドパーク事業計画の一時停止を求める差止請求を行いました。2021年10月26日、差止請求の検討およびフランス電力による反論のための尋問が行われました。
2021年11月、パリ民事裁判所(tribunal judiciaire)は、裁判前手続きの一環として、パリ電力がウィンドパークの建設を中断するよう求めた原告からの要求を、手続き上の理由を挙げて棄却しました。ただし、同裁判所は、デューディリジェンス法に関連する事項については司法裁判所の法的権限を確認しました。
新規情報
「メキシコにおけるフランス電力:パリ裁判所は人権侵害を防止する機会を逃した」 ヨーロッパ憲法と人権センター、2021年12月1日
「フランス電力は、先住民族の土地に関するメキシコ裁判所の判決がウィンドファーム事業に与える影響について否定」ウィンドパワー・マンスリー、2021年9月27日
「メキシコの風力発電事業が地域をバラバラに」ブルームバーグ、2021年7月9日
「メキシコにおけるデューディリジェンスの不在と人権侵害:フランス電力とフランス国家出資庁の責任とはなにか」ヨーロッパ憲法と人権センター、2021年6月
「メキシコ:民事訴訟:フランスの大手エネルギー企業、フランス電力には人権を守る義務がある」国際人権連盟、2020年10月13日
「メキシコのウィンドファーム:フランス電力が先住民族の権利を無視」ヨーロッパ憲法と人権センター。2020年10月