リソースセンター&WBAによる共同意見
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ビジネスと人権リソースセンター(以下、BHRRC)とワールド・ベンチマーク・アライアンス(以下、WBA)は、経済産業省が2022年8月に発表した「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」(以下、ガイドライン)について、下記の通り共同で意見を提出します。各項目につき、意見内容及びその理由を記載しています。参考資料については、該当部分につきリンク付けをし、最後に一覧としてまとめています。どうぞよろしくお願いいたします。
- 「はじめに」について
本ガイドラインの発表は、日本企業による責任ある企業行動の実現に向けた極めて重要な第一歩です。しかし、以前WBAとBHRRCがそれぞれ実施した日本企業のベンチマーク分析では、その両方において、日本企業各社が自主的に実施する人権デューディリジェンス(HRDD)には限界があることが明示されています。2022年5月に私たちが公表したポリシー・ノートで明示したように、一部の日本企業はHRDDにおいてリーダーシップを示しているものの、殆どは大きく後れを取っています。
特に重大なギャップがあるのが、HRDDのプロセスと、ステークホルダー・エンゲージメントです。WBAが評価対象とした日本企業の3分の2近く(64%)が、HRDDプロセスの最初の三つの段階(リスクと影響の特定、評価、統合と行動)を実践しておらず、評価対象とした日本企業の85%がステークホルダー・エンゲージメントを実践していませんでした。
法的でない市場ベースのアプローチによって企業による人権の尊重を改善することに限界があるのは明白であり、アカウンタビリティのギャップを埋めるには、義務的HRDDが不可欠です。例えばドイツでは、「ビジネスと人権に関する国別行動計画」のデューディリジェンスのガイダンスについて、企業による自主的な実施が不十分であることが、公的なモニタリングによって明らかになりました。これを受け、ドイツ連邦政府は法律制定の手続きを開始し、サプライチェーンDD法が2023年に施行されることになっています。
私たち団体が示したエビデンスを基礎として、日本政府は、日本企業による人権の実践をさらに推進するために、本ガイドラインにおいて義務的HRDDについてコミットメントを示すべきです。
企業への公平な競争条件の実現のために、DD法は、企業のバリューチェーン全体(上流部門の製品・サービスのサプライヤーと、下流部門の顧客・取引関係の両方を含む)にまで要求事項を拡大して実施されるべきである。ここに、人権に関する企業のパフォーマンスを改善する政策手段を見いだす上で、日本がリーダーシップを発揮する機会があるのです。
- 1.1「本ガイドライン策定の経緯・目的等」について
ガイドラインの策定プロセスでは、ガイドライン(案)作成過程での議論が開示されず、パブリックコメントの締切をタイトに設定するなど、ステークホルダーとの効果的なエンゲージメントを実現できていません。また、ガイドライン(案)は、パブリックコメントの締切のわずか3週間前に公表され、ステークホルダーが見解や意見を展開するための十分な時間を提供しておらず、影響を受ける個人および集団と十分にエンゲージできているとは言えません。したがって、私たちは、今回議論に参加できていない、疎外され脆弱なグループを含むすべてのステークホルダーがコメントを提出できるよう、意見募集期間を延長し、より包括的に意見を収集するべきだと考えています。また、ガイドラインや政府主導の他のイニシアチブに関連する今後のプロセスの透明性も向上すべきです。
ガイドラインの実施について、日本政府は、企業による実施を監視し、企業の順守について公に報告すべきです。ガイドラインの実施を監視する機関または当局は、十分な予算と人員を確保する必要があります。
監視プロセスは、期間が定められ、具体的かつ効果的なものであるべきです。日本政府は、影響を受ける市民社会組織(以下、CSO)や、その他のステークホルダーと協議し、監視プロセスを設計、確立、実施すべきです。ガイドラインはさらに、企業の実施進捗を監視するための独立した、様々な人々の要望や苦情を処理するメカニズムを含むべきです。このメカニズムは、国連指導原則(以下UNGP)によって規定された国家基盤型または非国家基盤型の苦情処理メカニズムの要件を満たすものでなければなりません。また、このメカニズムは、OECDシステムの下で設立された連絡窓口(ナショナル・コンタクト・ポイント、以下NCP)を補完するものであるべきですが、ガイドラインの下で日本や国外に拠点を置く影響を受ける人々から苦情を受け、調査するために必要なすべての権限を持つ別のシステムにもなり得ます。監視のプロセスは、パリ原則にもかかわらず未だ設立されていない国内人権機関(以下、NHRI)によって促進されることが可能です。私たちは、ガイドラインの導入が、より良い人権保護の実現に向け、政府がNHRIを設立する機運を高めると考えています。
- 1.3「本ガイドラインの対象企業及び人権尊重の取組の対象範囲」について
ガイドラインは、UNGP(原則4)との整合性を図るため、政府開発援助(ODA)など公的資金で支援・所有されている事業者を対象に含めるべきです。2021年以降、複数のCSOが、国際協力機構(JICA)、海外交通・都市開発事業団(JOIN)、国際協力銀行(JBIC)によるミャンマー軍事政権への資金提供が疑われる同国事業への関与を指摘しています。
また、ガイドラインは、すべての取引関係において、人権を尊重する企業の責任を明確にする必要があります。UNGPが示すように、「取引関係」には、取引先企業、バリューチェーン上の組織、及び企業の事業、製品またはサービスと直接関係のある非国家または国家組織が含まれています。
「下流」の定義について、ガイドラインは、エンドユーザーの段階におけるリスクと影響を明示的に含めるべきです。これを明確にすることは、ロシアのウクライナ侵攻おいてソーシャルメディアやメッセージングアプリが採った行動に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの分析に示されるように、昨今のソーシャルメディアやメッセージングアプリの利用において肝要です。
ガイドラインは、影響力が企業の責任を緩和する要素ではないとするUNGPと整合させるために、影響力の程度にかかわらず、企業には人権尊重の責任があると明示すべきです。むしろ、UNGPは、影響力が欠いている場合、企業が影響力を強める方法があるかもしれないとし、企業が影響力を強めることができない場合、企業は責任を持って取引関係を終了することを検討すべきとしています(原則19)。したがって、ガイドラインは、取引関係における影響力は、何が企業の適切な行動であるかを決定する要因の一つに過ぎないことを明記すべきです。
- 2.1.2.1「『人権』の範囲」について
ガイドラインでは、「人権」の定義に限定的な範囲を設定しています。ガイドラインは、環境と人権への影響と関連する国際文書(人権擁護者に関する国連宣言、先住民族の権利に関する国連宣言、DDの側面として気候変動への影響など)を範囲とするべきです。
ガイドラインは、「人権擁護者に関する国連宣言」(コンセンサスで採択)、「先住民族の権利に関する国連宣言」(日本政府は賛成)など、重要な国連宣言に言及していません。国連の総会決議には法的拘束力はありませんが、国際レベルだけでなく、地域や国レベルでの法的・政策的展開に影響を及ぼします。上述の宣言は、法的拘束力のある国際文書に明記された人権を基礎とし、これを取り入れたものです。
人権擁護者(以下HRDs)について、ガイドラインは、意見表明の自由、表現の自由や情報へのアクセスを得る権利など、重要な権利に言及すべきです。HRDsの重視は日本企業にとって必要であり、この点はBHRRCの調査でも示されています。2015年から2021年の間に、BHRRCは、日本企業や日本出資者に関連する、世界中のHRDsに対する少なくとも47件の攻撃を記録しました。司法上のハラスメントや恣意的な拘束に関するものが16件、次いで脅迫や威嚇に関するものが10件、負傷に関するものが6件、殴打や暴力に関するものが6件、恣意的な拘束に関するものが6件、殺害予告、結社の自由、殺害に関するものがそれぞれ1件となっています。
先住民族については、自由で事前の情報に基づく合意(Free, Prior and Informed Consent、以下FPIC)は ILO第169号条約 及び先住民族の権利に関する国連宣言に明記された人権であり、これを弱体化すべきではありません。したがって、FPICへの言及は脚注49から2.1.2.1項本文へと移動するべきです。
また、ガイドラインは気候変動の影響も含めるべきです。この点に関して、ガイドラインは、脚注ではなく、本文において、清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利を人権として認めた国連総会決議を強調すべきです。気候変動は、私たちの地球とその人々が何世紀にもわたって直面してきた最も重要かつ複雑な問題の一つです。人権と環境の課題が相互に関連し、企業が双方の側面をカバーするDDを実施する必要性は、国際社会において確立されています。例えば、欧州委員会が提案した「企業持続可能性DD指令案」は、企業に対して人権と環境の包括的なDDを明確に義務づけています。日本企業にとって、環境の視点を盛り込むことは非常に重要です。例えば2018年、レインフォレスト・アクション・ネットワークは、東京2020の木材サプライヤーであるコリンド社が、住友林業が輸入した木材を、火を使って開墾することで事業管理地内の人々の健康権を侵害していると指摘しました。
- 2.2.1「経営陣によるコミットメントが極めて重要である」について
人権尊重の責任を果たすためには、経営陣のコミットメントが重要ですが、ガイドラインでは取締役会の責任についての言及がありません。また、企業の人権方針へのコミットメントは、取締役会の役割と責任の一部として管理されることが重要です。人権に対する企業のアプローチの発展と実施は、ビジネスのトップ、つまり大企業であれば取締役会から指導されるべきです。
企業は、人権を尊重する責任と、より広範な事業活動や取引関係に適用される方針および手続きの間の一貫性を保つよう求めるべきです。これには、例えば、従業員に対する財務上およびその他の業績上のインセンティブを設定する方針および手続き、ビジネスモデルおよび戦略、さらには人権や環境が問題となる調達慣行やロビー活動などが含まれます。取締役会は、このような調整を確保するにあたって、最も適した場所であることが多いです。
2017年以来、WBAの企業人権ベンチマーク(Corporate Human Rights Benchmark、以下CHRB)は、高リスクセクターの人権パフォーマンスについて評価し、ランク付けをしています。この手法では、人権尊重の重要な側面として、取締役会レベルのアカウンタビリティに注目しています。これは、企業のアプローチがビジネスのトップから導かれるというUNGPの期待に導かれたものです。WBAの最新のベンチマークと分析では、以下のことが判明しました。
- 取締役会レベルで人権尊重の方針を表明している企業の人権パフォーマンスは、表明していない企業よりもはるかに優れています(スコア27%対9%)。取締役会レベルの表明が、業績向上への重要なステップであることを示しています。
- 人権に関する監視と専門知識を持つ、任命された取締役または委員会を持つ企業は、そうでない企業よりもベンチマークではるかに高いパフォーマンスを示しました(スコア40%対14%)。
- CEOや役員レベルの報酬を人権問題と結びつけている企業はスコア57%、人権と報酬を結びつけていない企業はスコア21%でした。
- 総合ランキングと人権DDのスコアは、いずれもトップレベルのガバナンス指標のパフォーマンスと正の相関があります。
企業による人権や環境への負の影響を特定し、防止し、軽減し、説明するためには、取締役会による適切な監督が不可欠であり、したがって、ガイドラインは、そのようなトップダウンの監督の重要性を強調するべきです。
- 2.2.3「人権尊重の取組にはステークホルダーとの対話が重要である」について
ガイドラインは、ステークホルダーの対話や協議が任意であることを示唆するのではなく、UNGP(原則17)に沿った人権を尊重する活動には、ステークホルダーとの効果的な関与が不可欠であることを強調すべきです。
ガイドラインは、企業がその活動により人権がリスクにさらされるステークホルダーのカテゴリーを特定し、開示する必要があることを強調すべきです。WBAの2022年社会的ベースライン評価では、評価対象となった日本企業67社のうち85%が、自社の活動によって人権に影響を及ぼしている、あるいは及ぼす可能性のあるステークホルダーのカテゴリーを開示せず、過去2年間にそれらのステークホルダーとの対話に関与した事例を2件以上を提示しませんでした。有意義なステークホルダーとのエンゲージメントは、企業が影響を受ける、あるいは受ける可能性のある人々の視点や優先順位を理解し、人権や環境への影響分析の質を高め、特定された影響をどのように管理するかをよりよく理解するのに役立ちます。エンゲージメントを行うことで、企業はステークホルダーの懸念に早期かつ効果的に対処し、リスクに積極的に取り組み、人権や環境への負の影響の発生や拡大を防ぐことができるのです。
- 2.2.5「各企業は協力して人権尊重に取り組むことが重要である」について
ガイドラインは、企業が取引関係の締結や解消を決定する際に、人権を考慮する必要があることに言及すべきです。サプライヤーとのエンゲージメントは、「命令・支配」に基づくロジックを超えて、研修、影響を受けるステークホルダーとの共同問題解決や協議、インセンティブ(価格割増、受注割増、契約延長など)、人権や環境の要件を満たすための取引関係への支援などが含まれます。また、適切なDDには、企業自身の購買や価格設定の方法が、バリューチェーンにおける人権や環境リスクに影響しているか否かを分析し、調整することが必要です。この点は、インドのファッションブランドの製造工場におけるジェンダーに基づく暴力・ハラスメントを調査したBHRRC報告書にて指摘されています。
また、ガイドラインは、日本企業のサプライヤーに一般的な人権要件を渡し、サプライヤーがさらに契約条項のみによってバリューチェーンの上流・下流にカスケードし、それを第三者監査人が「管理」することは、人権の擁護と尊重にとって不十分であることを強調すべきです。企業が社会監査に過度に依存することになりかねませんが、例えばラナ・プラザの崩壊に関する欧州憲法人権センターの調査では、社会監査は労働搾取を防ぐことができないと指摘されています。
- 3.1「策定に際しての留意点」について
ガイドラインは、企業に対し、HRDsと内部告発者の重要性に言及し、これら個人や集団が有する具体的なリスクに言及し、事業とバリューチェーンを通じてHRDsと内部告発者に対する攻撃と報復をゼロにすること、人権擁護活動を可能にし、安全な環境づくりに参加することを約束する人権方針を要求するべきです。
- 3.2「策定後の留意点」について
ガイドラインでは、労働者による理解深化のため、企業に対して人権方針に関する社内研修の実施するよう求めるべきです。また、人権方針に関する研修に加え、自社の事業に関連する人権や環境に関する課題についての啓発を行うべきです。ガイドラインは、CSOとのパートナーシップや関連団体が提供するeラーニングなど、企業が研修を実施するための具体的な手段について、より明確な指針を示すべきです。 WBAの「2019年CHRB」の調査結果によると、関連する管理職を含む労働者への人権コミットメントに関する研修に関する情報を開示した企業は平均57%のスコアを獲得し、そうした研修に関する情報を開示しなかった企業(平均合計スコア13.4%)と比べて4倍以上となりました。
- 4.1「負の影響の特定・評価」について
ガイドラインは、企業がステークホルダーとの対話を行わなければならないこと、また、事業の開始前だけでなく、事業の全ライフサイクルにおいて実施されるべきであると明確にするべきです。ステークホルダーとの対話は、効果的で、アクセス可能で、安全で、ジェンダーに配慮され、透明性のあるものでなければなりません。対話には、批判的または反対意見を持つ個人や集団も含まれるべきです。企業は、事業、バリューチェーン、プロジェクトのライフサイクルを通じて、リスクの特定と分析、負の影響の防止・緩和・停止のための措置、当該対話への参加や企業のDDプロセスのあらゆる側面から生じるリスクや報復の可能性への対処など、DDの全ての段階で権利保持者とHRDsを積極的にエンゲージ、協議、参画させるよう求められるべきです。この点は、企業活動に声を上げたHRDsに対する攻撃を分析したBHRRC報告書で強調されています。
- 4.1.2.2「脆弱な立場にあるステークホルダー」について
ガイドラインは、「外国人」の定義を明確にするべきです。この用語は、「日本で働く移住労働者」や「サプライチェーンにおける日本国外のステークホルダー」まで拡大することが可能です。ガイドラインの範囲は国外の影響も対象としており、脆弱なステークホルダーとしての「外国人」に関する明確な定義がないため、解釈が限定的になる可能性があります。
- 4.2.1「検討すべき措置の種類」について
企業は、ステークホルダーに対し、責任ある撤退と撤退計画について対話をし、説明をしなければなりません。ガイドラインは、これを任意であるかのように示すことは避けるべきです。また、権利保持者に影響がある場合、企業は補償をしなければなりません。これは、当該項目でガイドラインが挙げている事例にも関連します。ガイドラインは、企業が撤退計画を決定する際に、権利保持者と対話をし、影響への考慮・検討を超えた行動を講じる必要があることを明示すべきです。
- 4.3.1「評価の方法」について
ガイドラインは、労働者または権利保持者が主導する評価方法を奨励すべきです。このアプローチは、労働者または権利保持者の参加に基づき、彼らが評価のプロセスに完全に関与していることを保証します。これは、労働者自身が潜在的なリスクと現場での影響について最も深い知識を持っていることを認識するものです。日本企業も調査対象となったKnowTheChainのベンチマーク報告書では、労働者主導によるDDプロセスが決定的に欠如していると指摘しています。
- 4.4.1.1「基本的な情報」について
責任ある企業活動に関する情報の開示は、企業活動の透明性にとって最も重要であり、ステークホルダーが重要な関連情報にアクセスし、早期警告などのために企業とエンゲージすること可能にします。ガイドラインは、企業に対し、サプライチェーンの上流を含むサプライヤーリストや、リスクの高い商品・原材料の調達先の開示を求めるべきです。これは、企業が原材料の産地を「知り、示す」ことができ、関連するリスクへの認識を表すことを可能にします。また、サプライチェーンの労働力の構成に関するデータは、企業が誰が製品を作っているかを知り、労働者が直面するリスクを理解していることを明示すことを可能にします。
- 5「救済(各論)」について
ガイドラインは、企業が民事責任に対する抗弁として人権DDを使用することができないことを明確にすべきです。
また、ガイドラインは、ステークホルダーエンゲージメントが救済のすべての段階において優先されるべきことを強調すべきです。
国連ビジネスと人権作業部会報告書A/HRC/50/40/Add.4が示唆するように、適切なDDを証明するための立証責任は、被害者・請求者ではなく、企業に課せられなければなりません。正義を求める被害者は、親会社や主導企業の責任を立証するために必要な情報を明らかにする能力が限られています。被害者は、主張対象となっている親会社や主導企業の不履行と被害者が被った損害との関連性を証明する負担を負う必要はなく、むしろ親会社や主導企業があらゆる相当な配慮を行っていたことを証明するよう求められるべきです。
- 5.1「苦情処理メカニズム」について
ガイドラインは、苦情処理メカニズムについて、企業に対してより詳細なガイダンスを与えるべきです。以下は、ガイドラインが含むべき内容に関する提言です。
- 企業は、企業に関連する苦情や懸念を提起するために、すべての労働者がアクセスできる第三者または共有のメカニズムを確立するか、またはそれに参加するべきです。
- 企業は、上述のメカニズムが社外のすべての個人およびコミュニティにとって効果的に利用可能であり、特に周縁化された人々にとっての利用可能性を考慮することを保証すべきです。
- 企業の苦情処理メカニズムへのアクセスは、司法またはその他の非司法的な苦情処理メカニズムへのアクセスを妨げるものであってはなりません。
- 企業は、ビジネスパートナーやサプライヤーのレベルで人権や環境問題に対する苦情や懸念を提起するために、そのサプライチェーンやバリューチェーンの労働者が、企業独自のメカニズムのいずれかを効果的に利用できるようにする必要があります。これは、サプライヤーがメカニズムを設立したり、参加したりするための要件やサポートを含むことができます。しかし、そのような規定の単なる契約上のカスケードでは効果がないリスクがあるため、主導企業による実質的なエンゲージメントが鍵となります。
- 企業は、苦情や懸念の提起に対する報復を禁止し、報復を防止するための手段を確立する必要があります(例えば、苦情や懸念の提起時の匿名性の保証や報復のリスクの評価と対処を行うなど)。
- また、苦情処理メカニズムの設計、実施、運用に労働者、権利保持者、またはその正当な代理人が関与していることを確保する必要があります。
- 企業は、苦情の受付、処理、対処の方法を明確に説明することで、苦情処理メカニズムの利用に関する質の高いデータをステークホルダーに開示する必要があります。また、苦情を出した人がプロセスを通じてどのように情報を得られるか、また、どのように苦情を拡大または撤回することができるかを説明する必要があります。
- 5.2「国家による救済の仕組み」について
ガイドラインは、国家による救済の仕組みの実施や運用について、積極的なコミットメントを示すべきです。
国家に基づく司法的救済について、ガイドラインは、企業に対する救済の要求が、立証責任の逆転や司法救済を含む強力な予防効果を生み出すと同時に、人権侵害の被害者が日本国内外にある被害に対して法的救済を受けられるように、強固な民事責任制度によって支えられなければならないことを明確にすべきです。
また、ガイドラインは、国家に基づく非司法的メカニズムを強調し、その効果的な実施にコミットすべきです。NCPに関しては、OECDウォッチの年次報告書「State of Remedy」によると、現行のNCPは効果的な救済を提供しておらず、報告書では、日本NCPによるフィリピンにおける製造業案件(トヨタ自動車株式会社及びトヨタ・モーター・フィリピン社に対する問題提起)は、対応終了までにあまりにも時間がかかりすぎたことが指摘されていました。
- 参考資料
- BHRRC、WBA及びKnowTheChain「人権デューディリジェンスに関する日本企業の評価から得られたエビデンス」(2022年5月)、https://assets.worldbenchmarkingalliance.org/app/uploads/2022/05/Evidence-from-Japanese-companies-assessment-on-Human-Rights-Due-Diligence_JP.pdf
- BHRRC「Unbearable harassment: the Fashion Industry and Widespread Abuse of Female Garment Workers in Indian Factories」(2022年4月)、https://media.business-humanrights.org/media/documents/2022_GBVH_Briefing_final_je2K7Ei.pdf
- BHRRC「Human Rights Defenders & Civic Freedoms Programme」(2022年8月閲覧)、https://www.business-humanrights.org/en/from-us/human-rights-defenders-database/
- BHRRC「In the line of fire: Increased Legal Protection Needed As Attacks Against Business & Human Rights Defenders Mount In 2020」(2021年3月)、https://media.business-humanrights.org/media/documents/HRD_2020_Snapshot_EN_.pdf
- KnowTheChain「ギャップをなくす:企業による強制労働への取り組みを評価して5年、実効的な人権デューディリジェンスは行われているのか」(2022年1月)、https://knowthechain.org/wp-content/uploads/KTC-2022-Closing-the-gap_J.pdf
- 国連ビジネスと人権作業部会報告書、A/HRC/50/40/Add.4(2022年6月)
- ヒューマン・ライツ・ウォッチ「Russia, Ukraine, and Social Media and Messaging Apps」(2022年3月)、https://www.hrw.org/news/2022/03/16/russia-ukraine-and-social-media-and-messaging-apps
- メコン・ウォッチ他「ミャンマーでビジネスを継続している企業に対してミャンマー国軍の資金源を確実に断つ措置を講じるようエンゲージメントを求める要請書」(2022年1月)、http://www.mekongwatch.org/report/burma/mbusiness/20220118Letter_Jp.pdf
- OECDウォッチ「State of Remedy 2021」(2022年6月)、https://media.business-humanrights.org/media/documents/OECD-Watch-2021-State-of-Remedy.pdf
- 欧州憲法人権センター「Case report: OECD complaint against TÜV Rheinland」(2018年8月)、https://www.ecchr.eu/fileadmin/Fallbeschreibungen/Case_Report_RanaPlaza_TueVRheinland_OECD.pdf
- レインフォレスト・アクションネットワーク等「守られなかった約束」(2018年11月)、http://japan.ran.org/wp-content/uploads/2018/11/BrokenPromises_20181128_jp_web_high.pdf
- WBA「The Methodology for the 2022–2023 Corporate Human Rights Benchmark」(2021年9月)、https://www.worldbenchmarkingalliance.org/research/the-methodology-for-the-2022-corporate-human-rights-benchmark/
- WBA「CHRB 2017–2019」(2022年8月閲覧)、https://www.worldbenchmarkingalliance.org/corporate-rights-human-benchmark-2017-2019/