2022年KnowTheChain情報通信技術(ICT)部門ベンチマーク
ICT企業の利益は新型コロナウイルスのパンデミックにおいて急増し、最近では売却が進んだものの、世界最大のICT企業の合計年間収益は、2021年の約3兆米ドルから、過去12ヶ月で4兆米ドルを記録しています。しかし、このセクターが成長するにつれ、その広大なグローバルサプライチェーン内で労働権を侵害する「能力」も高まっています。強引な購買活動は、抑圧された環境での安価な労働への依存度を高め、搾取の温床を作り出しているのです。このセクターには歴史的に組合が存在せず、労働法が弱体化していることも、労働者の脆弱性をさらに悪化させています。
10回目となるKnowTheChainのベンチマーク評価では、各種プロセスの実施状況、ステークホルダーエンゲージメント、労働者に対する救済措置の成果を優先させるよう修正した新たな手法を用いて、自社のサプライチェーンにある強制労働リスクに対処するための企業の取り組みが労働者に直接的なインパクトを及ぼしているかどうかを評価しました。KnowTheChainの2022年情報通信技術(ICT)部門ベンチマークでは、グローバル企業60社を対象に、サプライチェーン上の強制労働に対処するための各社の取り組みを評価しました。対象企業には日本のICT企業11社が含まれています。いずれも世界全体の平均スコアは下回るものの、2020年のベンチマークから進展が見られました。
主な評価結果は以下の通りです。
- スコアの中央値は100点中わずか14点でした。大半の企業が、サプライチェーンにおける強制労働のリスクやインパクトに対処するための効果的なデューディリジェンス、あるいは労働者に実質的な変化をもたらす適切な措置の実施を示すことができませんでした。しかし、このセクターのスコアの幅は非常に広く、最も高いスコアを獲得したヒューレット・パッカード・エンタープライズは63/100を獲得しています。日本企業のスコア中央値はさらに低く、100点中11点でした。
- 日本企業は人権デューディリジェンスの実践において大幅に改善した一方、強制労働への対処に不可欠な分野で依然としてギャップがありました。日本企業の評価結果は調達行動に関して最も低く、自らの行動がサプライチェーンにおける労働権侵害に寄与する仕組みを買い手がいまだに十分考慮していない実態が示されました。評価対象の日本企業はいずれも、責任ある調達行動に関する情報を提示してませんでした。
- 世界全体で見ると、依然として労働者の声に関する評価が非常に低く(100点中8点)、特に結社の自由に関する平均スコアは100点中1点でした。一方、サプライチェーンの労働者の苦情を解決するために労働組合とエンゲージメントを実施しているICT企業が一社あり、ICT企業がこのようなエンゲージメントについて開示したのは2016年以来初めてのことです。日本企業のみで見ると、労働者の声に関する評価の平均スコアは100点中5点でした。
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企業に対する提言:
1.コミットメントとガバナンス
- サプライチェーンにおける強制労働リスクに対処するための方針やプログラムに関して、取締役会による監督を含め、それらを実施する責任者を記載することで、社内の責任体制とアカウンタビリティを明示する。
- 研修やキャパシティ・ビルディングを実施して、強制労働に関するサプライチェーン方針が一次サプライヤー以降も広がるようにする。そのために、例えば二次サプライヤーに対して直接強制労働リスクや関連方針の研修を行ったり、一次サプライヤーのキャパシティ・ビルディングを通じて、サプライヤー企業自身のサプライチェーンにおける労働条件の管理を促す。
2. トレーサビリティとリスクアセスメント
- 強制労働リスクを含むサプライチェーンのリスクアセスメントを実施し、サプライチェーンの各段階で特定された強制労働リスクの詳細を報告する。
- サプライヤー企業の社名と所在地を明記した一覧と、サプライチェーンの労働者に占める女性や移住労働者の割合などサプライチェーンにおけるリスク要因に関するデータを開示する。
3. 調達行動
- 一次サプライヤーに対して、計画、見通し、人件費の確保を含む、責任ある調達行動を採用する。
- すべての一次サプライヤーに関連する責任ある調達行動について、数年間に及ぶ対前年比のデータポイントを採用して公表する。
4. 採用活動
- 雇用者負担原則を方針として採用し、労働者ではなく雇用者が各種費用を負担する。
- 労働者が支払った斡旋料の救済措置と、そうした斡旋料を発生させないための予防措置の両方をとる。採用ルートとともに、各採用ルートでかかる斡旋料や関連費用を特定し、サプライヤーから入手した関連文書(斡旋業者との間の契約書や労働者のビザなど)を精査する。
5. 労働者の声
- サプライヤーの労働者とその代表が効果的な苦情処理メカニズムを利用できるようにする。メカニズムの運用状況やサプライヤーの労働者やその代表による利用状況に関するデータを開示して、実効性を証明する。
- 労働協約の適用対象である労働者の割合の対前年比データを開示したり、労働者にとっての具体的な成果の事例を開示したりするなどして、結社の自由を積極的に推進し、サプライチェーンの文脈全体を通して、結社の自由および団体交渉の改善状況が分かる証拠を提示する。
6. モニタリング
- 特定された労働の権利の侵害について、その件数と種類の内訳を含め、サプライヤーのモニタリングプログラムの結果を開示する。
- 強制労働の兆候を確実に見つけるため、労働者主導のモニタリングを行う(労働者の権利と優先事項に基づいて、労働者が参加した上で第三者が実施するモニタリング)。
7. 救済措置
- サプライチェーンにおける労働の権利の侵害に関する苦情や申し立てに対応するためのプロセスを確立する。その中で責任の所在を明示し、影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメントや各ステップの具体的なスケジュールも明記する。
- 影響を受けるステークホルダーとエンゲージメントを行い、サプライヤーの労働者に対する救済措置の成果や、実施された救済措置について当事者の労働者が納得していることを示す証拠を公表する。
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KnowTheChainの2022年ICTベンチマークは、大手ICT企業60社のサプライチェーンにおける強制労働への取り組みを評価したものです。地域別、サブセクター別、テーマ別の調査結果をご覧ください。