Social Connection for Human Rightsの意見
[SCHRは「ビジネスと人権に関する行動計画」改定版原案についてのパブリックコメントに意見を提出しました ] 2025年10月31日
SCHRは、外務省総合外交政策局人権人道課が2025年10月30日まで実施していた「『ビジネスと人権』に関する行動計画改定版の原案についての意見募集」に意見を提出しました。 [...]
第1章 行動計画が改定されるまで(背景及び作業プロセス)
3 行動計画の改定及び実施を通じて目指すもの
【意見①】
日本政府が実施するODA事業に日本企業が参画することから、ODA事業において、指導原則の考え方に沿った人権・環境デューディリジェンスを実施し、事業実施前・実施中・実施後の人権や環境への負の影響に対処していくことを記載いただくことを提案いたします。
【意見②】
「仮に、企業による個々の人権尊重の取組が、短期的に一企業における経済合理性にそぐわない場合でも、サプライチェーン上の脆弱な立場の人々の人権に対する負の影響が生じることがないよう、政府が人権保護のため必要な施策を講じて補完することが必要となる場合も想定される」との記載については、「人権尊重の取組を事業活動の根幹として組み込むよう努め、バリューチェーン全体を通じた持続可能な発展に貢献するものとして位置付けていくことが重要である」「企業が短期的な経済合理性を追求するあまり、バリューチェーンにおける負担が不均衡となり、脆弱な立場のステークホルダーの人権に対する負の影響への取り組みが見過ごされることがないよう、あらゆる施策を講じていく」という主旨で修正することを提案します。
そもそも、経済合理性の観点から経済発展を追求したことが、人権侵害を伴う経済活動を正当化してきたという経緯を十分に踏まえた記載がNAPにおいては重要です。
4 行動計画の改定プロセス
【意見】
改定プロセスの透明性を高めるためにも、改定版NAP原案に対する意見募集は円卓会議・作業部会構成員を対象に実施するとしても、原案はバージョンごとに公表し、原案が修正されるプロセスを公開することが期待されます。
あわせて、改定までのスケジュールも公表し、円卓会議・作業部会構成員だけでなく、関心のあるステークホルダーが改定プロセスを知り、このプロセスに実際に参画できるパブリックコメントの機会を最大限に活用できるように進めるべきです。
改定プロセスの透明性の向上について、今後検討していくことを記載することを提案いたします。
第2章 優先分野
1 人権デュー・ディリジェンス及びサプライチェーン
【意見①】
「(2)取組の方向性及び具体的施策の例」として「人権デュー・ディリジェンス実施の義務化の検討の開始」を追加すべきと考えます。
サプライチェーンを通じた人権尊重の実現のために、強制的な法律規制措置と自発的な措置の組み合わせ(スマートミックス)が必要であり、その施策の一つである人権デュー・ディリジェンス実施の義務化について議論すべきと考えます。岸田文雄首相(当時)の参院予算委員会における「将来的な法律の策定可能性も含めて更なる政策対応について検討していく」(2024年3月6日)との発言に基づき、施策を進めることが重要です。いわゆるチェックボックス型にならないように、ライツホルダーの声を第一に、各国の事例から学びながら議論することも併せて付記することを提案します。
【意見②】
「②独立行政法人等が指導原則に沿って人権尊重に取り組むことの確保」について、「開発協力・開発金融分野において、JICA、JBIC、及びNEXIが策定している環境社会配慮のためのガイドラインの効果的な運用及び必要に応じた見直しの実施」について、指導原則に沿った実効性のある運用、加えて、ODA事業に関与する企業を含む関連機関の担当職員の能力構築、在外公館を通じた各国の開発課題に対するタイムリーかつ継続的な情報提供、さらに紛争影響地域における強化された人権デュー・ディリジェンスの取り組みの実施の追記を提案します。
現存する環境社会配慮ガイドラインでは、サプライチェーン上の人権尊重の取り組みの実効性が不透明です。とりわけ、ODA事業における人権デュー・ディリジェンスの実施は、国家の人権保護義務の履行につながることから、NAPにおいて課題を明示することが重要です。日本政府のガイドラインにおいても、強化された人権デュー・ディリジェンスの取り組みが言及されている一方、ミャンマーのクーデターに関連し、ODA事業と人権侵害との関連性、またイスラエルやロシアの国際人道法違反行為と日本企業との関連性も指摘されています。したがって、平和構築に関する取り組みも含めて、ODA施策における人権デュー・ディリジェンスの実施を確実にすることがNAPの役割としても重要です。
【意見③】
「③諸外国との対話・連携を通じた、指導原則の実施に向けた取組」における「諸外国(東南アジア諸国等の地域レベルを含む)の政府や企業、市民社会等とのビジネスと人権に関する対話【外務省、厚労省、経産省】」に関して、現地政府・現地商工会議所・現地企業はビジネスと人権への取り組みを推進しているものの、各国の日本大使館やJETRO事務所においてビジネスと人権に関するNAPやその他最新動向に関して全く情報が周知されていないようなケースも散見されるため、現地のステークホルダーとの対話を増やし、日系企業の現地でのビジネスと人権に関わるデュー・ディリジェンスを推進していくために、大使館職員への啓発やJETRO事務所の駐在員・現地職員へ啓発をさらに実施していくことを提案いたします。
2「誰一人取り残さない」ための施策推進
【意見】
「ア 課題認識及びこれまでの取組」の項目において、各優先分野における潜在的および実際の人権への負の影響および影響を受けるライツホルダー及び人権に関するギャップが特定されておらず、市民社会が指摘している課題が十分に反映されていません。昨年は国連ビジネスと人権ワーキンググループが日本におけるビジネスと人権の課題を指摘しており、こうした指摘をふまえて、それぞれの優先分野において、人権への負の影響およびライツホルダーを特定し、その影響を防止・軽減、是正・救済するための法制度や施策を確認し、人権保護におけるギャップを分析した結果を「取組の方向性及び具体的施策の例」に反映していくことを提案いたします。
また、救済へのアクセスを確保するため、政府が設置している司法的・非司法的なグリーバンス・メカニズムを通じた申し立てから把握した人権への負の影響を「課題認識及びこれまでの取組」「取組の方向性及び具体的施策の例」に反映することを提案いたします。
(2)外国人労働者
【意見】
「外国人」を強調することは、国籍による差異を強調することになりかねず、また、仮に日本国籍であっても異なるルーツのある人々が直面する課題があります。したがって、「様々なルーツを持つ」など、国籍が判断基準となることを殊更に強調しないこと、または、国際人権基準にしたがって「移住労働者」としてその特性に焦点を充てる表現とすることを提案します。
3 テーマ別人権課題
【意見】
NAP改定時に新しい人権課題を含める際には、現行NAPの策定プロセスに含まれていたベースラインスタディ(現状把握調査)を実施し、新しい人権課題における人権への負の影響および影響を受けるライツホルダーを特定し、その影響を防止・軽減、是正・救済するための法制度や施策を確認し、ギャップに対処するための分析・調査を実施することが必要となります。
改定版NAP原案に含まれる「AI・テクノロジーと人権」「環境と人権」については、このベースラインスタディやギャップ分析が実施されておらず、残念ながら、市民社会組織が指摘している人権課題が十分に反映されているとはいえません。
本提案書のそれぞれの人権課題について各団体が指摘している課題と期待される対応を原案に反映することを提案いたします。
(2)環境と人権
【意見①】
2022年7月、国連総会において、クリーンで健康かつ持続可能な環境へのアクセスは普遍的人権であることを宣言する決議を採択されたこと、同決議では、気候変動の影響、天然資源の持続不可能な管理と消費、大気・土地・水の汚染、化学物質及び廃棄物の不適切な管理、これらに伴う生物多様性の喪失と生態系サービスの低下が、クリーンで健康かつ持続可能な環境の享受を妨げ、環境破壊が直接的・間接的にすべての人権に負の影響を与えているとの認識が示されていることを明記すべきです。
その観点から、「ア 課題認識及びこれまでの取組」における「人権課題と環境課題が交差することを指摘する声もあり」との記載は、同決議を支持した日本政府の立場と矛盾するものであり、削除すべきと考えます。国連総会の決議は環境問題と人権問題のつながりを明確化した国際社会における重要な合意であり、日本政府も賛成した以上、これを記載しない理由はないと思われます。
【意見②】
②として再生可能エネルギー事業によって影響を受けるアイヌを含む先住民族の権利であるFPICや重要鉱物の採掘現場における強制労働や環境被害など具体的課題を指摘した上で、「公正な移行における人権に配慮した気候変動の取組の強化」を追記し、関連する施策を記載すべきと考えます。
国連ビジネスと人権作業部会の訪日調査報告書は、段落85(c)において、(s)公正な移行(ジャスト・トランジション)に向けた人権への考慮を念頭に置きながら、気候変動への取り組みを強化することを提言しており、再生可能エネルギーの開発・利用は、地域社会の持続的な発展に資するようにすべきことを確認することが重要です。
4 指導原則の実施推進に向けた能力構築
【意見①】
ステークホルダー、特に人権に負の影響を受けるライツホルダーが指導原則の実施推進に参画するためには、ビジネスと人権の考え方やNAPに対するステークホルダーおよびライツホルダーの認知度を上げる必要があります。
企業による人権尊重の実践のための周知や理解促進だけではなく、ステークホルダーへの周知と理解促進を進めることも重要となるため、「(2)取組の方向性及び具体的施策の例」の②にこれについて記述することを提案いたします。
【意見②】
③として「意義のあるステークホルダーエンゲージメントの実施の促進」を追記すべきと考えます。たとえ①~②のような様々な能力構築のための施策を実施したとしても、それが実際の企業の人権尊重の取り組みに結びつかなければ有効とは言えず、そのためには、当事者であるライツホルダーとのエンゲージメントが重要であることは指導原則が何度も強調するとおりです。人権尊重ガイドラインでも確認されたように、人権デュー・ディリジェンスの全てのステップで意義のあるエンゲージメントが実施されるよう、現状の把握及び促進に向けた施策を検討すべきです。
7 救済へのアクセス
【意見①】
指導原則では、非司法的グリーバンス・メカニズムの実効性を確保するための8要件を示しており、継続的学習源とすることがそのうちの一つとして求められている。国家基盤型のグリーバンス・メカニズムを通じて人権に負の影響を受けるライツホルダー、またはその視点を持つステークホルダーの人権侵害の懸念や申し立てに対処して得た知見を「(1)課題認識及びこれまでの取組」「(2)取組の方向性及び具体的施策の例」に反映することを提案いたします。
【意見②】
「(2)取組の方向性及び具体的施策の例」における「② 個別法に基づく人権救済の状況を見定めつつ、人権救済制度のあり方についての検討の継続」について、ステークホルダー報告書の提案19でも提案されているとおり、「パリ原則に合致した国内人権機関の設置についての議論の継続」と明示することを提案します。
政府から独立した人権機関(NHRI)は、指導原則27が述べるとおり、国家が整備すべき苦情処理メカニズムとして、裁判所という国家基盤型の司法的メカニズムのみならず、実効的で適切な非司法的苦情処理メカニズムとして重要です。
国連作業部会の訪日調査報告書も、85段落(g)において、国内人権機関を遅滞なく設立することを提言しています。同報告書では、日本固有の人権課題・領域に関し、リスクにさらされている集団として、女性、LGBTQI+、障がい者、マイノリティ集団・先住民族、子ども及び高齢者を挙げ、また、深刻な懸念のある分野として、健康・気候変動・自然環境、労働者の権利、メディアとエンターテインメント業界及びバリューチェーンと金融の規制を挙げており、このような様々な人権課題に対して横断的に取り組み、政策提言や個別の課題への取り組みを強化するためには、国内人権機関が必要不可欠です。
【意見③】
「国内外のスラップ訴訟(市民参加に対する戦略的訴訟)に対する啓発及び施策の実施」を追加することを提案します。
とりわけガバナンスギャップの大きい新興国においては、人権擁護者に対し司法手続きを通じた嫌がらせが頻発しており、ビジネスと人権における国際的に共通する課題の一つです。この点、日本企業もサプライチェーン上で直接関連する可能性があり、啓発及び関連する施策を実施することが重要です。
第4章 今後の行動計画の実施及び見直しに関する枠組み
【意見】
現行NAPのレビューからNAP改定におけるプロセスの中で、政府がステークホルダーと直接対話する機会が十分に確保されていません。指導原則では人権に負の影響を受けるステークホルダーとの有意義なエンゲージメントを求めており、そうしたライツホルダー、もしくはそうした視点を持つステークホルダーとの対話が行動計画の実施および見直しの中で有意義な形で実施していくことを記載することを提案いたします。
ステークホルダーとの対話においては、「3年目意見交換のためのレビューに関するステークホルダー報告書」や国連ビジネスと人権作業部会の訪日調査最終報告書にも含まれていた国内人権機関の設置、作業部会の最終報告書に含まれていた人権デューディリジェンス義務化についてなど、政府の今後の対応が期待されるイシューについて対話することを求めます。
また、人権に負の影響を受けるライツホルダーは国内だけに存在しているわけではないことから、対話においては海外のステークホルダー(現地のNGO・労働組合・当事者団体・アカデミア・国際機関・シンクタンク等)も含めることを提案いたします。