米国:農場などでの無登録労働者の強制送還は一時停止されたが、移民労働者の権利と労働条件は依然として脅かされている
2024年の米国大統領選挙後、国内の移民労働者の待遇を巡り、権利擁護団体、政策立案者、そして労働者自身から懸念の声が上がった。選挙に勝利したドナルド・トランプ次期大統領は、選挙期間中から移民規制の強化と「大規模な強制送還」の実施を公約していた。これに対し、財界からは、そのような大規模な送還が米国の労働市場と経済に深刻な打撃を与えると警鐘が鳴らされた。
米国の農業などの産業は、移民労働者に大きく依存している。農業分野では、H-2Aビザ(農業専用の季節労働ビザ)で働く労働者と、農業労働力の最大50%を占める無登録労働者の両方に頼っているのが実情である。労働力不足は、米国の食料安全保障と物価に直接影響を及ぼす可能性がある。全産業で見ると、推定1050万人の無登録の移民のうち850万人が労働者であるとされ、観光・宿泊業、建設、医療・介護分野といった他の産業も移民労働力に依存している。
非営利団体「アメリカ移民協議会(American Immigration Council)」の報告書は、トランプ氏の移民計画を分析し、無登録を理由とする強制送還によって、建設業と農業では少なくとも8人に1人、宿泊・観光業では14人に1人の労働者が失われると指摘する。また、アメリカン・エンタープライズ研究所、ブルッキングス研究所、ニスカネン・センターによる共同研究は、商品やサービスを生産する外国人労働者の減少が直接的な影響となり、2025年の米国GDP成長率が最大0.4ポイント抑制される可能性があると推計した。さらに、ピーターソン国際経済研究所による最近のモデルでは、830万人の無登録労働者全員が送還された場合、2028年の経済成長はベースライン予測を7.4%下回る可能性があると予測している。
2025年1月には、移民当局が犯罪歴のある無登録の移民を標的に強制捜査を行っているとの報道を受け、移民の農業労働者が畑や農場に来ることを恐れ、収穫が「事実上停止」したとの報告が表面化し始めた。
2025年6月、ニューヨーク・タイムズ紙は、トランプ政権が方針を「突然」転換し、農場、ホテル、レストランでの強制捜査を一時停止したと報じた。その理由として、強制送還キャンペーンが「(トランプ大統領が)支持を失いたくない産業や有権者」に損害を与えているためだと同紙は伝えている。