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2022年の人権擁護者&ビジネス:地球を守るために企業の強大な既得権益に挑む人々

世界中で人権擁護者は多大な貢献をしていますが、その成果が十分に評価されることはほとんどありません。天然資源や気候を保全し、労働者の権利を守り、腐敗を暴き 、不正を拒む擁護者たちは、強大な既得権益に立ち向かっているために攻撃の標的となっています。人権擁護者に関する宣言の25周年を迎えるにあたり、各国政府は、擁護者やその他のステークホルダーとの継続的かつ有意義なエンゲージメントを企業に義務付ける人権および環境デューディリジェンス法案を可決するなど、擁護者を保護するためにできる限りのことをすべきなのです」

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メアリー・ローラー、国連人権擁護者の状況に関する特別報告者

無責任な事業活動から地域社会、環境、生活を守るために、世界中の人々が、日々、行動を起こし、時には大きな個人的犠牲を払ってでも、人権尊重の責任を果たすよう企業に要求しています。ビジネスと人権リソースセンター(以下、リソースセンター)は、こうした人権擁護者に対する攻撃について追跡調査を実施しており、そのデータから、攻撃の大半が地球環境への負の影響に懸念を表明する人々に対するものであることが明らかになっています。

攻撃を受けた擁護者には、マレーシアの自然保護区域での伐採を阻止するために直接的な行動を取っている地域住民、メキシコの水力発電プロジェクトによる被害から川と流域の生物多様性を保護しようとしている先住民のリーダー、セルビアの環境汚染について報道しているジャーナリストなどが含まれます。

擁護者たちは大きな課題に直面しながらも、世界中で勝利を手にしています。2022年、シエラレオネでは、慣習的な土地の権利を保護し、自然保護区域や生態学的に脆弱な地域での産業開発を禁止する新法の制定が実現し、米国ルイジアナの「キャンサー・アレイ(がん通り)」では、環境擁護者が2つの大型石油化学プロジェクトを阻止しています。パキスタンのシンド州ではアパレル労働者が最低賃金の40%増を勝ち取ることに成功しました。 ブラジルコロンビアでは、女性の人権擁護者が政治の要職に選出されました。さらに、先住民族の女性リーダーや女性たちの組織からの長年の提言を受けて、女性差別撤廃委員会は、「先住民の女性および少女に関する一般勧告第39号」を採択しました。これは、拘束力のある国際条約における先住民の女性と少女の権利に焦点を当てた最初の文書です。

国連「人権擁護者に関する宣言」の25周年に際し、私たちは、人権と地球環境を保護する世界中の人々、組織、コミュニティの勇気、創造性、献身に敬意を表します。

一方で、人権擁護者は耐え難いリスクと危害にさらされつづけています。人権を促進し、環境を保護するための重要な活動において、擁護者が対峙しているのは強大な既得権益です。擁護者は、無責任な事業活動に従事する企業や投資家、人権を保護する義務を果たさない政府、環境破壊から利益を得るその他の非国家主体に対して懸念を表明しているのです。さらに、抗議活動を禁止する法律テロ容疑名誉毀損「外国人工作員」に対する法律などが反対意見を封じるために利用されることで、擁護者の活動の自由はますます制限されています。CIVICUSによると、2022年は市民社会スペースの深刻な減少が顕著に進み、平和的集会、結社、表現の自由が尊重され、開かれた市民社会スペースのある国に住む人は世界人口の3%のみとなっています。

ビジネスに関連する被害から人権、天然資源、環境を守ろうとする人々に対する致死的または非致死的な攻撃の広がりは、政府が人権を保護できていないこと、企業や投資家の自主的な行動では被害を防止、阻止、救済するには不十分であることを物語っています。さらに、安全で継続的かつ効果的な権利保有者の関与に裏付けられた人権および環境デューディリジェンスの義務化、先住民族の「自由意志による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」のプロセスの尊重、人権擁護者に対する強力な保護措置、環境保護の最前線にいる人々を守るための政府のさらなる対応が必要であることを強く示しているのです。

2015年1月から2023年3月までに、リソースセンターは、有害な事業活動に懸念を表明した人権擁護者に対する4,700件以上の攻撃を記録追跡しました。2022年だけでも555件の攻撃が記録されています。これはすなわち、無責任な事業活動に対して正当な懸念を示したために平均して毎週10人以上の擁護者が攻撃を受けていることを意味します。攻撃の4分の3(75%)は、気候、土地、環境の擁護者に対するものでした。また、5分の1以上(23%)が、世界人口の約6%でありながら、世界に残る生物多様性の80%以上を保護している先住民擁護者に対する攻撃でした。

これは氷山の一角に過ぎません。この追跡調査は公開された情報に基づいていますが、多くの攻撃、特に殺害以外の非致死的攻撃(殺害予告、司法ハラスメント、身体的暴力など)がメディアに取り上げられることはなく、政府による攻撃の監視体制にも大きなギャップがあるため、実際の問題は報告された数字よりもはるかに深刻なのです。

世界の概況

人権や環境の擁護者に対する攻撃は、世界のどの地域でも発生しています。リソースセンターが2015年に攻撃の追跡を開始して以来、擁護者にとって最も危険な地域は一貫してラテンアメリカとアジア・太平洋地域となっています

2022年、ビジネスに関連する人権侵害について懸念を表明した擁護者に対し、最も多数の攻撃が記録されたのは、ブラジル(1人または複数の擁護者に対する攻撃63件)、インド(54)、メキシコ(44)、カンボジア(40)、フィリピン(32)、ホンジュラス(31)、ベラルース(28)、ペルー(23)、コロンビア(20)、ウガンダ(17)でした。調査の手法は、リンク先から閲覧できます。

攻撃の種類

擁護者はさまざまな攻撃を受けています。そのなかには、脅迫、中傷キャンペーン、任意逮捕、市民参加を妨害するための戦略的訴訟(SLAPPs)、身体的・性的暴力などの非致死的攻撃と殺害の両方が含まれます。2022年に記録された攻撃のほとんど(86%)は非致死的攻撃でしたが、それが死に至る暴力につながった事例も多くみられました。このことから、各国政府は致死的ではない攻撃を警告サインとみなし、擁護者の保護措置を強化する必要性が示唆されます。

しかし、致死的ではない攻撃の多くは捜査や処罰の対象とされないまま放置されています。これは擁護者の活動を抑制するばかりか、たとえ擁護者が重要な活動を継続しようとしても、不処罰の蔓延がさらなる暴力行為を助長しかねません。市民社会団体と国際法の専門家によって2021年12月に始動したエスペランサ・プロトコルは、人権擁護者に対する脅威の捜査、訴追、処罰を支援し、最終的に世界中の人権擁護の環境を整えるため、国際人権法に基づくガイドラインを各国政府に提供しています。このプロトコルは主に国家の義務に焦点を当てていますが、事業者についても、その活動、行為、不作為が人権擁護者に対する脅威につながらないようにするとともに、擁護者に向けられたあらゆる危害に対処しなければならないと指摘しています。

ペルー

オスカー・モロフアンカ・クルスは、ペルーのエスピナール地区の元市長であり、人権と環境の擁護者でした。2012年、彼は他の地域住民とともに、この地域での銅の採掘に関連する環境汚染と健康被害について懸念を表明しました。

2016年、彼は他の2人の擁護者と共に、自身の活動や2012年の抗議行動による治安悪化、公共サービス妨害、治安妨害の罪で刑事起訴されました。3人の擁護者は、27,000EUR(100.000ソル)の罰金に加え、最初の2つの罪では8年、3番目の罪では7年の懲役を求刑されましたが、その後、2017年7月17日に無罪となりました。しかし、2018年5月10日、イカ高等裁判所の第一刑事控訴院は無罪判決を覆し、裁判を再び開始するよう命じました。2021年11月、オスカーはペルーの環境擁護者全国キャンペーンに参加し、同国における擁護者の保護の欠如と人権擁護権の保護が急務であることを訴えました。2022年3月7日、オスカーは体に傷を負った状態で死亡しているのが発見されました。

司法ハラスメント

多くの政府は、人権を保護する義務を果たしていないだけでなく、法制度を通じて積極的に擁護者を標的にしたり、民間企業がこれらの制度を利用して擁護者を攻撃することを助長したりしています。恣意的な拘束、不公正な裁判、その他の形態の犯罪化などを含む司法ハラスメントは、世界中で蔓延し続けています。これには、公的な課題解決に向けた活動に参加する権利、あるいはコメントや批判の権利を行使する人々やグループに対して、企業関係者が訴訟を起こす市民参加を妨害するための戦略的訴訟(SLAPPs)も含まれます。司法ハラスメントは、擁護者に大きなストレスと危害を与え、擁護者の財源を消耗させると同時に、人権活動から時間を奪うものです。さらに、他の人々が不正行為に対して声を上げることを躊躇させる抑止効果をもたらす可能性もあります。こうした司法ハラスメントを合計すると、2022年に追跡した事例のほぼ半分(47%)、2015年以降の事例の51%を占めています。

ボスニア・ヘルツェゴビナ

スンチカ・コヴァチェヴィッチサラ・トゥシェヴリャクは25歳の法学部生で、東サラエボのカシンドルスカ川での小型水力発電所の建設反対運動を行う地域住民や活動家からなるグループを結成しました。この活動は、ベルギーを拠点とするグリーンインベスト社の子会社であるBUK d.o.oが運営する水力発電所が環境と人権に与える影響について懸念を表明するものでした。2022年1月、グリーンインベスト社はスンチカとサラに対して、SLAPPの特徴を持つ名誉毀損訴訟3件を起こし、擁護者はさらなる法的措置で脅かされています。リソースセンターがグリーンインベスト社に回答を求めたところ、同社に対する名誉毀損を阻止するために訴訟を起こしたと回答がありました。Riverwatch、EuroNatur、Foundation Atelier for Community Transformation - ACT、Save the Blue Heart of Europe、Stop building small hydropower plants on Kasindolska riverの各団体は回答に対する返信で、擁護者への支持を表明しています。

ACT - Foundation for social change

攻撃のジェンダー的性質

2022年中、攻撃の4分の1近くが女性の人権擁護者に対するものでした。あらゆる性別の擁護者が人権活動を理由に攻撃の標的にされていますが、企業権力と家父長的なジェンダー規範の両方に立ち向かう女性人権擁護者は、特にジェンダー化された攻撃にさらされることが少なくありません。これには、性的な内容のオンラインでの脅迫や嫌がらせ、女性が家事よりも活動に時間を費やしていることを批判する中傷キャンペーンなどが含まれます。採掘産業の影響から土地、領土、資源、気候を守る女性たちに関するSAGE Fundの調査では、インタビューを受けた女性の多くが、オンライン中傷キャンペーンによる心理的被害は、擁護者が直面する構造的被害のなかでも特に深刻かつ長期的な影響を及ぼすものだと述べています。

こうした戦術は、女性擁護者に汚名を着せ、孤立させ、黙らせることを意図しています。家父長制的力学により、女性の人権擁護者はしばしば、社会、コミュニティ、家族を含むさまざまな領域でリスクに直面します。所属する運動や組織での差別や暴力、人権活動に対する家族やコミュニティからの批判、家庭での親密なパートナーからの暴力などを経験することもあります。あらゆる性別の擁護者が正義と救済を実現するうえで障壁に直面していますが、女性の人権擁護者にとっては、性別に基づく差別と暴力によって困難はさらに増幅されます。さらに、人種、民族、能力、その他のアイデンティティに基づく複合的な差別に直面している女性にとって状況はさらに過酷です。

セクターの概要

擁護者に対する攻撃は、ほぼすべてのビジネス業界に関連し、世界各地で発生しています。2022年、最も危険な上位3セクターはいずれも天然資源に関連するものでした。世界のエネルギーモデルを支えてきた短期的な利益追求型の採掘アプローチは、擁護者に対する攻撃を引き起こす中核的な要因となっていますが、コミュニティや国に対して約束された経済的利益や発展の多くは提供されていません。

リソースセンターが2015年に追跡を開始して以来、鉱業は一貫して擁護者にとって最も危険なセクターであり、防止措置の進展はほとんどみられません。2022年に記録された攻撃の30%近くが鉱業に関連しています。さらに鉱業は先住民族の擁護者にとって特に危険なセクターで、2022年、先住民族に対する攻撃の41%が鉱業に関連していました。

国際エネルギー機関によると、クリーンエネルギーへの移行の鍵を握る鉱物(リソースセンターがTransition Minerals Trackerで追跡調査中の銅、コバルト、リチウム、ニッケル、マンガン、亜鉛、ならびにその他のレアアース)の需要は2040年までに 6 倍になると予測されます。こうした需要の増加に伴い、鉱業セクターにおける攻撃規模が拡大することが特に憂慮されます。さらに、2022年の調査では、これらの重要鉱物資源の世界的な基盤の半分が、先住民族の土地またはその近くに位置していることが判明しました。特に懸念されるのはリチウム採掘で、現行および計画中のリチウム採掘プロジェクトの85%が、先住民族が管理または居住する土地またはその近くに位置しています。

クリーンエネルギーへの移行に必要な鉱物の採掘や、土地集約型の再生可能エネルギープロジェクトは、すでに土地や水、先住民の権利の侵害を広く引き起こしています。リソースセンターが実施しているTransition Minerals Trackerの追跡調査から、ゼロ・カーボン移行に必要な6つの主要鉱物の最大の生産者が、地域社会へのリスクと影響にほとんど対処できていないこと、そして市民社会団体とそのリーダーに対する攻撃が記録され続けていることが明らかになりました。こうした移行へのアプローチは、反対運動や紛争を助長し、プロジェクトと世界的な気候変動目標の達成の両方を遅らせる結果を招きかねません。実際、このような紛争の結果、再生可能エネルギープロジェクトに関連した擁護者369人以上に対する攻撃が起きており、うち98人が殺害されています。加えて、移行に必要な鉱物の採掘に関連して、少なくとも148件の攻撃がありました。これは鉱物の採掘から設備の設置まで、再生可能エネルギーのバリューチェーンに関連して記録された517件の攻撃の4分の1以上を占めています。

こうしたリスクにもかかわらず、人権と環境の擁護者は、持続可能なエネルギーへの移行が、過去および現行の有害な採掘モデルを再現するのではなく、権利を尊重する形で行われるよう、矢面に立って訴えています。擁護者はまた、エネルギーセクターの公正性に基づく革新、再構築にも取り組んでいます。これに伴い、再生可能エネルギー企業が、共同所有と持続可能な共通の恩恵の原則に基づいて先住民族コミュニティとともにプロジェクトを設計するエクイティモデルの枠組みを採用する事例が、小規模ながら増えてきています。

攻撃の加害者

攻撃の多くが処罰されずに横行しているうえに、政府、民間企業、その他の非政府主体が癒着しているため、加害者の特定が難しい例は少なくありません。特定の企業やプロジェクトとのつながりが特定できた事件(2022年の被害全体の43%)では、インドとアラブ首長国連邦に本社を置く企業に関連した人権侵害が最多でした。両国は、自らをグローバルリーダー、環境リーダーとして位置づけようとしており、2023年にはそれぞれG20、COP28という大規模な多国間イベントが開催されます。さらに、2024年にG20の議長国を務めることが決まっているブラジルは、企業の人権侵害について懸念を表明する擁護者にとって世界で最も危険な国となっています。このことは、気候変動や世界経済・金融の安定に関する集団行動の舵取りを任されている国々が、人権保護義務や自国に本社を置く企業が擁護者の権利を侵害した場合に責任を追及する義務を果たしていないことを示す憂慮すべき信号です。

Dhinkia women

インド

JSW製鉄所に反対する人々が犯罪化される

Dhinkia women

インド

JSW製鉄所に反対する人々が犯罪化される

2018年、Jindal Steel Ltd(JSW)は、インドのオリッサ州ジャガティンスグプル県に大規模な統合製鉄所の建設を提案しましたが、当初から地元の村民たちの反対を受けました。以前、生産量1200万トンの鉄鋼プロジェクトをめぐる韓国企業ポスコとの10年にわたる闘いに勝利した地域住民は、その後も、土地収用による強制移住、環境と健康への負の影響、食料や伝統的生業(キンマ栽培など)に対する権利侵害について懸念を表明してきました。

JSWの工場が承認されて以来、地域住民は平和的な抗議活動、工場用地取得を阻止するための直接行動、公聴会におけるプロジェクト反対運動を展開してきました。しかしながら、地域住民の抵抗に対して警察は厳しい弾圧を加え、さらには、虚偽の容疑で1,000人以上の住民が刑事罰に課せられています。抗議活動の組織化に関わった擁護者たちは、逮捕や拘留、身体的暴力、脅迫ハラスメントに直面しています。これには、2022年1月14日に平和的な抗議活動を支援したために逮捕されたナレンドラ・モハンティデベンドラ・スウェインムラリダール・サフーが含まれます。この時、警察は多くの人々を負傷させ、逮捕したと報告されています。また、2022年2月19日には、警察と上級行政官が立ち会っていたにもかかわらず、プラディープ・サトパシーと他の擁護者は、ディンキアの村民とともに、暴徒からの襲撃を受けています。この事件は、擁護者が高等裁判所の任命した弁護士委員会に会い、JSWの土地取得の名目で行っている弾圧に関する懸念を申し立てる道中で起きたものです。2022年3月、環境擁護者のグループは、この提案が不十分で不正な環境影響評価に基づくものであるとして、撤回を求めました。にもかかわらず、2022年4月、JSWは工場設立のための環境許認可を取得し、2022年12月には、シャンティ・ダスアバヤ・マリックディリップ・カンディナラヤン・ムドゥリフルダナンダ・ルートメーガ・ダスヌタン・ダスなど、運動のリーダーたちが逮捕されました。プラディープ・サトパシーや デベンドラ・スウェインなど、プロジェクトに抗議する多くの擁護者は今も勾留されています。

地域住民はこうした弾圧を受けながらも、プロジェクトに反対しつづけています。擁護者はインド政府に対し、プロジェクトの森林・環境許認可の取り消し、警察部隊の撤退、暴力行為に及んだ役人の捜査、抗議者に対するすべての告訴の棄却と刑務所からの釈放を求めています。2023年3月、インド国家グリーン審判所は、公聴会で累積環境影響評価を考慮することなく環境許認可が決定されたこと等を理由に、同プロジェクトに対する環境許認可を一時停止する決定を下し、連邦環境省に対し、3ヶ月以内に再評価を行うよう要請しました。

リソースセンターはJSWに回答を求めました。回答全文はリンク先から閲覧できます。インドは2022年、ビジネスについて懸念を表明した擁護者に対する攻撃の数が2番目に多い国ですが、2023年9月にG20を開催する予定です。

写真:Prafulla Das

Maasai people protest evictions, Tanzania 2022

タンザニア

狩猟保護区の立ち退きに抗議するマサイ族を政府軍が攻撃

Maasai people protest evictions, Tanzania 2022

タンザニア

狩猟保護区の立ち退きに抗議するマサイ族を政府軍が攻撃

「私たちの政府は、私たちを土地から追い出すために軍の全権を解き放つことを決定しました。銃声が鳴り響くなか、多くの人が負傷し、子どもたちは茂みの中を歩き回り、私たちは茂みの中で眠りながら移動しています。政府は負傷者の治療を拒否しています。多くの人が食べるものもない状態です。そして、ここは私たちの先祖代々の土地です。UAE首脳の贅沢な狩猟のために私たちの土地を奪うなんて、それこそ野蛮な行為です」

ータンザニア、マサイ族リーダー(匿名)

2022年6月8日、数十台の警察車両と推定700人の警官が、タンザニア北部のセレンゲティ国立公園に近いロリオンドに到着し、マサイ族の土地1,500km2を狩猟保護区として区分けしました。6月10日、警察は立ち退きに抗議するマサイ族に発砲し、少なくとも男性18人と女性13人が撃たれ、13人がナタで負傷しました。1名の死亡が確認されました。アラブ首長国連邦(UAE)を拠点とするオッターロ・ビジネス・コーポレーション(OBC)は、同国の王室とそのゲストのための狩猟ツアーを行なっており、この地区の商業狩猟を管理すると報告されています。NGOサバイバル・インターナショナルによると、この暴力事件後、数千人のマサイ族が家から逃げ出し、警察は一軒一軒を回り、立ち退きの様子を撮影した画像を拡散したと思われる人々を殴り、逮捕しました。2022年10月、70以上の団体と100人近い個人が、タンザニア政府に対し、マサイ族の権利を擁護し行使したことを理由に犯罪化にすることをやめ、でっち上げられた罪で投獄された人々を釈放し、すべての被害者に司法へのアクセスを提供し、このプロジェクトのためにOBCに与えられた利権や許可証を取り消すよう公に要請しました。リサーチセンターはOBCにこれらの疑惑に対する回答を求めましたが、回答はありませんでした。

Illegal gold mining protest in Brazil, 2022

ブラジル

ヤノマミ族が自らの土地を守り、攻撃を受ける

Illegal gold mining protest in Brazil, 2022

ブラジル

ヤノマミ族が自らの土地を守り、攻撃を受ける

ヤノマミランドは、ブラジル最大の先住民族居住地で、2万5千人以上のヤノマミ族が暮らしています。この地域は法的に保護されているにもかかわらず、違法な金採掘により、河川の汚染、森林の破壊、重大な健康被害など、壊滅的な影響を受けています。違法採掘に使われる水銀は、農作物を育てる土地や漁場、飲料水を汚染し、大量の違法鉱山労働者(ガリンペイロ)が先住民居住区に侵入したことで、マラリアや重度栄養失調の患者が爆発的に増えています。この地では1970年代から違法採掘が行われていましたが、ボルソナロ政権下で環境保護政策が弱まり、環境保護や先住民問題を担当する連邦機関の権限が削減されたことで、違法採掘が拡大しました。その他、金の生産チェーンの透明性の欠如、原産地申告の不正を許す規制の不備、ブラジルの失業率の悪化なども要因となっています。Hutukara Associação Yanomamiの調査によると、2016年から2020年までに、ヤノマミ族居住地での試掘面積は3,350%以上も増加しました。

2022年4月には2人が殺害され、5人が負傷するなど、採掘から領土と天然資源を保護しようとするヤノマミ族に対して、ガリンペイロによる攻撃が相次ぎました。同月、12歳の少女がレイプされて殺害され、4歳の子どもが川に投げ捨てられる事件も起きました。また、鉱山労働者は食料を得るために女性や子どもへの性的虐待も行っています。2023年1月、ブラジル保健省はヤノマミ族居住地に保険衛生上の非常事態を宣言し、違法鉱山労働者の排除作戦を開始しました。

Repórter Brasil、Escolhas Institute、ヒューマンライツウォッチは、ヤノマミ族を含むブラジル先住民族の土地から違法に採掘された金に関連がありうる企業を特定しました。リソースセンターは、Ourominas、D'Gold、Carol、Bulgari、Rolex、Tiffany & Coに対して この疑惑について回答を要請しました。2023年2月、Ourominas、Rolex、Tiffany & Coは回答し、D'Gold、Carol、Bulgariは回答していません

2022年に最も多くの攻撃を受けている事業、バリューチェーン、またはビジネス関係に関連する企業5社は、オッターロ・ビジネス・コーポレーション(UAE)、JSW Steel Ltd. (インド)、 トタルエナジーズ (フランス)とChina National Offshore Oil Corporation(東アフリカ原油パイプライン運営会社)、Inversiones los Pinares(ホンジュラス)、NagaCorp(カンボジア)です(詳細はこちらからダウンロードできます)。これらの企業の事業、バリューチェーン、またはビジネス関係に関して人権上の懸念を表明している擁護者に対する攻撃は、たとえその企業が直接攻撃を行ったものでなくても含まれます。

リサーチセンターはこれらの企業に回答を求めましたがJSW Steel Ltd.トタルエナジーズからは回答があり、 オッターロ・ビジネス・コーポレーション、 Inversiones los Pinares、NagaCorpからは回答がありませんでした。

企業が擁護者への攻撃に関与する方法は、以下のように多岐にわたります:

  • 事業所での平和的な抗議活動を警察や治安部隊に呼びかけて鎮圧させる。
  • 労働組合のリーダーの脅迫、解雇、逮捕を要求する。
  • ジャーナリストやその他の擁護者を監視できるサービスや製品を提供するなど、国家による抑圧に協力する。
  • 擁護者に対し、名誉毀損、損害賠償、重罪の扇動などの訴訟を起こす
  • 市民の自由を制限する政策、例えば「反抗議」法や擁護者を犯罪者に仕立てることを可能にする政策へのロビー活動を行う。

他にも、あまり目立たないものの、擁護者を沈黙させ、その権利を損なう戦術として、特定のコミュニティメンバーにインセンティブを与えて分断を生み出す、組合結成を妨害する、プロジェクトに関する不当な情報を流す、人権や環境を守るための規制に反対するロビー活動を行う、企業の利益のためにガバナンスギャップを利用する、などの方法が挙げられます。

国連「ビジネスと人権に関する指導原則」その後のガイダンスによると、事業者が擁護者に影響を与える人権侵害を引き起こしている、または人権侵害を助長している場合、その責任は明確であり、当該事業者はその人権侵害を終わらせ、あらゆる被害に対処し、救済する必要があります。しかし、たとえ企業や投資家と攻撃との間に明白な直接的関係がない場合でも、事業提携、サプライチェーン、取引などでつながりがある、および/または投資関係がある場合は、その事業者が擁護者の権利と市民の自由を尊重できるよう、積極的に影響力を行使することが期待されます。さらに、市民の自由が制限されることは、投資や経済活動にとってリスクの高い状況であり、企業や投資家にとって「情報のブラックボックス」を作り出し、人権デューディリジェンスの確実な実施を困難にします。

擁護者への攻撃に関与する他の非国家主体には、違法採掘者、違法伐採者、組織的犯罪集団が含まれます。違法な採掘や伐採(適切な土地の権利、利用ライセンス、輸送許可、その他の許可を得ずに行われる天然資源の抽出)は、しばしば重大な人権侵害、環境破壊、汚職と関連しています。貴金属のサプライチェーンにおける透明性の欠如、生産国と消費国の両方における規制の弱さ、多大な利益を得る可能性、そして不処罰の蔓延が、この分野での搾取を助長しています。

違法な採掘や伐採について懸念を表明する人々は、自分たちの土地、清浄な水、生物多様性を守り、汚染や森林破壊と闘い、気候危機への取り組みを支援しています。擁護者はしばしば、こうした資源の違法搾取に関わる人々からの脅迫や暴力に直面しています。企業はこれらの攻撃の直接的な加害者ではありませんが、違法に搾取された資源は往々にして企業のサプライチェーンに到達するため、調達先企業における人権デューディリジェンスの強化が必要なのです。

政府

リサーチセンターが追跡した事件のうち、加害者の情報が公開されているものでは、加害者として挙げられたのは警察が最も多く、次いで司法制度となっています。このデータは、政府が権利を保護する義務を怠っているだけでなく、警察、軍隊、司法制度といった国家の代理人や武器を使って、人権や環境保護活動を沈黙させ、止めさせようと積極的に動いていることを物語っています。国連ビジネスと人権作業部会によると、政府は人権擁護者に対する企業のあらゆる形態の脅威や攻撃を調査、処罰、救済する義務を負っていますが、多くの政府は、自身が関与しているため、攻撃が監視の目をかいくぐることに既得権をもっています。さらに、致死的および非致死的な攻撃に関する公式データを収集している国はごく少数です。

法律と自主的な取り組みにおける進展

過去2年間、市民社会からの長年の提言を受けて、ソフトローとハードローの両面において、ビジネスと人権擁護者に関連するいくつかの重要な進展がありました。2021年には国連ビジネスと人権作業部会によって「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)の画期的な解釈が示されました。これは、事業者が擁護者の権利を尊重する規範的責任を明確にし、人権デューディリジェンス・プロセスにおいて擁護者が果たす重要な役割を強調し、影響を受けるステークホルダーの懸念を企業側が理解することを可能にするものです。また、環境人権擁護者に関する規定を含む世界初の法的拘束力のある文書であり、ラテンアメリカとカリブ海諸国における環境に関する最初の国際条約であるエスカス協定が発効しました。

2022年と2023年のマイルストーンは以下の通りです:

  • 女性差別撤廃委員会による「先住民族女性・少女の権利に関する一般勧告 39 号」の採択-先住民族の女性と少女の権利に焦点を当てた初めての文書である。女性差別撤廃委員会は、「先住民の女性および少女に関する一般勧告第39号」を採択。これは、拘束力のある国際条約における先住民の女性と少女の権利に焦点を当てた最初の文書である。一般的勧告は、先住民族の女性と少女が、清潔で健康的かつ持続可能な環境のための要求と行動の最前線にいることを認識している。
  • 2023年4月25日に欧州議会の法務委員会(JURI)で承認された欧州連合の企業持続可能性デューデリジェンス法のテキストに、強化されたステークホルダーエンゲージメントの要件と人権擁護者の文言が含まれており、企業の説明責任に関するこの歴史的法案の最終テキストに、擁護者に関連する要件が含まれる可能性が高くなっている。同時に、JURI委員会の見解の文言は、ララ・ウォルターズ主席欧州議会議員が先の報告書案で提案した文言よりも弱い面もある。2022年12月1日に加盟国が採択したEU理事会の一般的アプローチにも、擁護者に関する文言が含まれており、企業活動によって権利や利益が影響を受ける可能性のあるステークホルダーとして明示的に言及されている。欧州連合で健全な環境で生活する権利を保護するオーフス条約に基づき、国連は元人権擁護者特別報告者であったミシェル・フォーストを史上初の環境擁護者特別報告者に任命した。これは、国連あるいはその他の政府間機構の法的拘束力のある枠組みの中で、環境保護者の保護に特化したメカニズムが確立された最初の例である。
  • OECD多国籍企業行動指針の改訂に関する協議で、市民社会グループが報復に関する文言を強化し、「人権擁護者」を明示的に含めるよう求めている。
  • 米民主主義サミットの一環として、市民的空間と人権擁護者の保護について、いくつかの企業や政府がコミットメントを示した。

このような進展は、ビジネスに関連する被害について懸念を表明する擁護者に対する攻撃を防止し、対処すべきだという認識がますます広がっていることを示しており、企業自体のなかでも、この問題に対処しようという機運が高まりつつあります。例えば、ヒューレット・パッカード・エンタープライズは2022年1月に周縁化された集団(擁護者を含む)の権利を尊重する方針を制定しました。トータルエナジーズは、ウガンダにおける人権擁護者と表現の自由に関して取った行動に関する情報を公開しました(トータルエナジーズによるウガンダの人権方針もご参照ください) 。また、人権を尊重した安全管理を企業に指導するマルチステークホルダー・イニシアチブである安全と人権に関する自主的原則(Voluntary Principles on Security and Human Rights)は、2023年半ばに擁護者についてのガイダンスを発表する予定です。

私たちの権利と環境を守る世界中の人々に対する攻撃の規模と深刻さは、緊急行動の必要性を明確に示しています。私たちは、国に対し、これらの提言に基づき行動することにより、擁護者の権利を保護する義務を果たすこと、およびビジネスアクターが擁護者の権利を尊重することを求めます。

政府への提言

  • 人権、持続可能な開発、健全な環境を促進する上で、権利擁護の権利と個人および集団の擁護者の貴重な役割を認識し、攻撃を一切容認しないことを約束する法律を可決し、実施すること(詳細はこちら)。これには、先住民族およびアフリカ系住民の特定の権利の法的承認が含まれなければならない(詳細はこちら)。
  • 擁護者の市民的自由を保護する主要な国際的・地域的条約に加盟し、またはすでに批准している場合は完全に実施する。なお、擁護者には、有害な事業活動について懸念を表明する者を含むこと。
  • 人権デューディリジェンスの義務化など、UNGPsを実施するための国内法を成立させ、このプロセスのすべての段階で擁護者と協議すること。この法律は、潜在的または直接的に影響を受ける擁護者やその他の権利者と安全かつ効果的な協議を継続的に行うことを事業者に義務付けるべきであり、気候緩和および適応計画に不可欠な部分であるべきで、擁護者に関する国連作業部会の指針および上記のその他の主要な条約(詳細はこちら)と一致させる必要がある。
  • 非致死的攻撃と致死的攻撃に関するデータを収集・報告し、より効果的な保護措置や、企業が擁護者の言論を抑制することを防ぐための反SLAPP法を成立させる(詳細はこちら)。
  • 擁護者に対する報復行為に対する企業の責任を追及するための司法制度を強化し、攻撃の責任者の捜査および訴追に積極的に参加することを含め、損害が発生した場合の効果的な救済を保障する。
  • ビジネスと人権に関する拘束力のある国連条約の採択に向けて動き、擁護者が直面するリスクと人権を擁護する権利を明示する。

企業への提言

  • 擁護者の貴重な役割を認識し、擁護者の特定のリスクに言及し、デューディリジェンスプロセスのすべての段階において擁護者との効果的なエンゲージメントと協議を確保し、事業活動、サプライチェーン、取引関係全体を通じて報復行為を一才容認しないことを約束する方針を採用し、実施する。
  • 土地や先住民の権利の侵害など、擁護者への攻撃に関連して濫用されることの多い権利に特に注意を払い、基本的権利を尊重することを約束する公に利用可能な人権方針を作成する。
  • UNGPs、国連作業部会の擁護者の尊重の確保に関するガイダンス、国連作業部会のジェンダーガイダンスに従い、全体を通してジェンダーの視点を組み込んだ人権および環境デューディリジェンスに取り組み、その結果を報告し、事業活動によって被害を受けた人々の効果的な救済へのアクセスを確保する。
  • 先住民族の擁護者が不釣り合いなリスクにさらされていることを認識し、先住民族の自決権、土地、領土、資源に対する権利、FPICを得るプロセスを定義する権利、ならびに同意を保留する権利を含めて、FPICの権利に基づき、先住民族の権利を尊重する(詳細はこちら)。
  • 擁護者が人権を擁護する権利を有すること、企業がUNGPsの下で責任を遵守するのを支援する上で擁護者が欠かすことのできないアライ(ally)であることを公的に認める。

投資家への提言

  • 事業活動に関連するリスクを特定する上で、擁護者の貴重な役割を認識し、擁護者に対する攻撃を一才容認しないことを約束する人権方針を公表する。投資先企業に対し、本方針に含まれる人権に関する期待事項を明確に伝える。方針には以下の事項を含む。
    ‣ 人権および環境関連のリスクを開示すること
    ‣ 地域社会、労働者、擁護者との継続的な協議に参画すること
    ‣ 土地の権利、FPICを含む先住民の権利を尊重するための方針とプロセスを策定すること
    ‣ 擁護者の権利を尊重すること
    ‣ 損害が発生した場合、効果的な救済へのアクセスを確保すること
  • ジェンダーの視点を取り入れた厳格な人権・環境デューディリジェンスを実施し、投資先候補が過去に報復行為に関与していないか審査する。また、このような過去のある企業への投資は回避する。
  • 擁護者への攻撃を含む人権および環境上の損害を引き起こした企業、またはその一員となった企業、あるいは損害に直接関連する企業に対して、その企業が影響を軽減し、影響を受けた人々に救済へのアクセスを提供できるよう、影響力を行使する。

著者:Christen Dobson, Ana Zbona

調査者および寄稿者:Lady Nancy Zuluaga Jaramillo, Valentina Muñoz Bernal, Vitória Dell’Aringa Rocha, Ella Skybenko, Vladyslava Kaplina, Andrea Maria Pelliconi

ビジネスと人権リソースセンター(BHRRC)は、180 カ国以上、1 万社以上の企業の人権への影響を追跡し、その情報を 10 カ国語で公開している国際 NGO です。リソースセンターの「市民の自由と人権擁護者」プログラムは、企業活動やグローバルサプライチェーンに関連する人権や環境の擁護者に対する殺害や暴力の根本原因に取り組み、企業による権利尊重の実践と説明責任を提唱しています。また、擁護者や市民の自由を支援するため、企業が迅速な行動を取り、長期的な関与を継続することを求め、擁護者が安全に人権を主張できるように攻撃の予防に努めています。

表紙イメージ:Emily Arasim/WECAN International

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